鍵のかかってない部屋

読書とかゲームとか映画とか

【音楽】『イージー・ライダー』を聴く

 映画『イージー・ライダー』のサウンドトラックは物語と密接に結びついており、ときに映像以上に主人公たちの心情は場面の状況を表現している。というわけでサウンドトラックの収録曲を順に聴いてみる。

 

 

 The Pusher / Steppenwolf

 冒頭を飾るステッペンウルフの代表曲。

 歌詞が映画全体の予言のようになっている。

 "Pusher"と"Dealer"、どちらもクスリの売人の意味があるが、英語のwikiによると*1"Pusher"はヘロイン、"Dealer"はマリファナを意味しているらしい。"Pusher"の方をより破壊的な存在として、「自分が大統領だったら"Pusher"に全面戦争をしかけてやる("if I were president of this land, You Know, I'd declare total war on the pusher man")」と言う。

 そしてその"Pusher"に対する”Shoot him if he'd run(逃げるなら撃て)”や"I’d kill him with my Bible and my razor and my gun(聖書に従い奴を撃ち殺す)"と言った歌詞は、映画のラストを暗示しているのだろう。

 スローテンポな曲だが途中で何度もリズムを崩したり風の音を入れたりして、まるで薬が蔓延して荒廃した世界が表現されているようだ。

 

 Born to Be Wild / Steppenwolf

 作品のテーマを俯瞰した1曲目に続いて、物語の始まりを告げる疾走感あるナンバー。

 "Born to be wild"(ワイルドにいこう)、"whatever comes our way , Yeah Darlin' go make it happen(何が待ち受けていてもどうにかなるさ)"と、楽観と期待に満ちていて、旅立つ前のワイアットとビリーの心がそのまま表されている。

 良くも悪くも一番印象的で映画を代表する曲。観終わった後の雰囲気の落差がまた哀しい。

 

 Wasn't Born to Follow / The Byrds

  一日目に野宿をした後に流れるバーズのカントリーロック。

 ヒッピーへの賛歌のような歌詞で、都会から離れて自然の中に分け入っていこうとする60年代の気分が凝縮されている。まだ道半ばにあったワイアットたちの楽天的な気分を象徴している。このあとヒッチハイカーと会い、二人はヒッピーのコミューンを訪れることになる。特にワイアットは彼らの生活に共感を覚える。

 しかし最後には全てを失う終わりが待ち受けていることを予感させる。

 

 The Weight / The Band

 ハイカーを拾い、ガソリンを補給して再び出発するところで流れる。まだ自由の幻想に浸れた幸せな時間。歌と共にアメリカの広大な自然風景がバックに流れる。

 荷物(しがらみ)を降ろして気楽に行こう("Take a load off, Fanny")と繰り返すスローナンバーだが、ワイアットたちの置かれた状況を示唆するように「休める場所はあるか("can you tell me where a man might find a bed?")」「ねぇよ(""no" was all he said")」という会話が交わされる。

 荷物というのはワイアットたちが逃れた(と思っていた)社会のこと。けれどどこまでもその規範は彼らに付いて回り、彼らを排除しようとする。

 

 If You Want to Be a Bird / The Holy Modal Rounders

 ジョージを旅の仲間に加えたときに流れるサイケデリックフォークソング

 曲調も歌詞も、何かを決めてぶっ飛んでいる感に溢れている。正常と狂気の狭間ではなく完全に向こう側に飛んで行ってしまったような歌詞。曲に合わせるようにビリーとジョージはバイクの上で空を翔るようなポーズを取る。

 

 Don’t Bogart Me / Fraternity of Man

 旅を続けるジョージを含めた三人の旅路で流れるブルース。

 クスリをやっている友人に、俺にも回せよ、と頼んでいる歌詞が延々と続く。

 ジョージは酒は飲むがクスリはやらない、という男だった。

 

 If 6 was 9 / Jimi Hendrix

 "Don’t Bogart Me"に続き、破滅の原因ともなる食堂に入る前に流れる曲。

 ヒッピー時代を象徴する他の曲と同じように、社会規範をくそくらえと吐き捨てるような歌詞。といっても「ヒッピーどもが髪を切ろうがどうでもいい("if all the hippies cut off all their hair, I don't care")」とも書いていて、白人文化もヒッピーとも違う、自分だけの自分を志向しているところがジミー・ヘンドリックス。

 しかし彼もまたドラッグ、酒に溺れて早逝した。

 

 Kyrie Eleison / The Electric Prunes

 ジョージが死亡した後、二人で食事をしている時に流れる、鎮魂の思いが示されているような静かな曲。

 曲名の「キリエエレイソン」というのは辞書(研究社新英和中辞典)によるとカトリックギリシャ正教で行われる祈禱の文句(「主よ憐れみ給え」)のようだ。曲中ではこれと"Christe"(キリスト、主よ)という文句だけが繰り返される。

 そんな祈りの歌をサイケにしてしまうのが時代だし、何だか追悼と言いながら飲んで歌ってバイクを走らせる暴走族(勝手なイメージ)みたいだ。

 

 It's Alright Ma(I'm Only Bleeding) / Roger McGuinn

 マルディ・グラでのトリップの後、先に進もうとする中で流れるアコースティックな曲。元はボブ・ディランの曲("Bringing it all back home"収録)だが、T3を謳ったバーズのギター、ロジャー・マッギンによるカバーに差し替えられている。

  原曲は7分以上ある大作なのだが映画で使われるのは数分、サントラ版も3分程度にアレンジされている。当然歌詞も大幅に短縮されていて、原曲冒頭からサビまでと、そこに繋がるように "A question in your nerves is lit(「心に問いかけてみても」)"の連が歌われる。

 冒頭からの歌詞は、ソビエトを暴力で覆って行った共産主義の恐怖を意識しているらしいが、続く行ではアメリカ型資本主義による疲弊の影もある。それに対し、自分はため息を吐くことしかできない("I'm only sighing")。

 そしてつなげられた連ではイズムよって疲弊していく人の心を癒す術などなく、それぞれの体制に人々が仮初に身を任せている一方、そこから外れた自分にはもう何もないとつぶやく("Although the masters make the rules for the wise men and the fools. I got nothing, Ma to live up to")。アウトサイダーとなったワイアットたち自身の姿が重ねられている。

 ヘブライ語聖書の引用もあり、含まれた意味も多いため細かい読解は難しい。またこのバージョンでは欠けているが、原曲の最終行、「奴ら俺をギロチンに掛けるだろうよ」("They'd probably put my head in a guillotine")、と死の予言が為されている。「でも大丈夫、人生ってそういうものさ」("But it's alright, Ma. It's life, and life only")。

 

 Ballad of Easy Rider / Roger McGuinn

 再びロジャー・マッギンによるエンディング曲。

 川の流れるまま海へ、別の町へ、どこかへ行きたい、ただ自由になりたかった、と歌い上げる("All he wanted was to be free. And that's the way it turned out to be. Flow river flow, let your waters wash down. Take me from this road to some other town")。 ワイアットたちの辿った運命を想うと締め付けられるような、それでいて静かな余韻を残すバラード。

 "Let your waters wash down"は「涙を洗い流して」くらいか。自由を得ようとしながら失敗した二人は、それでも先に進もうとする。しかし世界は彼らを洗い流すどころか無残に打ち殺し、噴煙をあげさせる。せめてその煙が自由に「流れて」行くよう願うばかり。

 

 以上9曲。映画が無くても作品として成立する極めて完成度の高いアルバム。

イージー・ライダー オリジナル・サウンドトラック

イージー・ライダー オリジナル・サウンドトラック

  • アーティスト: サントラ,ロジャー・マッギン
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2017/03/29
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る

  映画の感想。

aocchi-blue.hatenablog.com